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捨身飼虎図

今日の稽古に

出てきた茶碗の絵を見て

メイは首をかしげた。

ほとんど肉がない細身の人物が上衣を木に掛けている。

その右に、その人物が崖から落ちていく姿、

崖の下には痩せ細った虎の親子。

「・・・この絵はなんですか」

メイは飲み終わった茶碗を大切そうにかかえ、

内弟子先生をちらりと見てから、ご亭主役(稽古中)のナナさんに聞いた。

「え?捨身飼虎の図のこと?」

ナナさんは生粋の京都っ子で、アクセントもはんなりした京風。

知らないほうが不思議、というような目でこちらを見ているが、

メイは、それを聞いてもさっばりである。

「センセイ、違いますか?」

ナナさんは、流れるような京都弁でそう言いながら、

助けを求めるように先生を見た。

先生は、釈迦の前世の姿だと教えてくれた。

餓えた虎の親子を救おうと自らの身を与えたのだという。

その話を聞きながら、メイは茶碗の中の釈迦の前世という人物の顔をのぞいてみた。

穏やかだった。

とても幸せそうだった。

――虎を救ったのではなく、自らが救われたみたい

あっ、こんな風にお茶がしたい!

メイはそう思った。

自分のためにというのが一切なくなったとき、

というより、相手のためにというのも一切なくなったとき、

でも、自分ではなく相手のために何かできたとき、

ものすごく幸せな一服になるんじゃないかと思った。

”私は、このためにお茶をしてるんです!”

――何でお茶をしてるんだ?

前に、聞かれた時、メイは答えられなかった。

わからなかった。

ただ好きだったからだ。

でも、そう、これかも・・・

私にも何か、誰かのために、

できることがあるかも

それが私にはこのお茶なんだ。

この人が生まれ変わって釈迦になったのか・・・

このお茶碗で今日、お茶が飲めてよかった。

メイは名残惜しそうに、茶碗の正面を亭主に向けて返した。

【つづく】

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